21人が本棚に入れています
本棚に追加
こうなったらやけくそだ。
「犯人は拉致とも呼べる、乱暴な手口を使いました。
ですが財布に被害は無く、金銭目当てでは無い。
つまり私に、深い恨みを持つ人物です」
ぱちぱちぱち、と教授の乾いた拍手。
「おまえは特別、目をかけてやる必要がありそうだな」
「正解でしたか?
学業成績には、自信があるんです」
「そうではない。
出来の悪い教え子ほど、可愛いと言っているのだ」
「何ですって!」
教授を睨む私の目つきは、きっと険しくなっていただろう。
「GPA3.5。
特待遇奨学生だったな。
ペーパーテストは得意らしいが。
どうも頭が固いと見える」
教授は私に歩み寄り、再び右手を掴むとゼミ生へ掲げた。
「拘束箇所に、跡が残っていないだろう」
「だからどうだって言うんです?」
「拘束するなら、手錠やプラバンドが早く確実。
途中でほどけることも、まずない。
それにも関わらず、犯人はタオルを使用した。
どういうことか分かるか」
誰も言葉を発しなかった。
「わざわざ跡が残らないよう、気を使ったのだ。
ずいぶんと優しい犯人じゃないか」
にわかに小教室が、ざわつき始めた。
「二十分ほど余ったが。
初回だから、ここまでとしておこう」
教授が配り終えたレジュメの余りを、ファイルにまとめ始めた。
「次回までに、わんこ君の事件についての推理を、レポート用紙五枚以内で提出すること。
必要ならば現場に出向き、五感をフルに使った調査を行うこと。
事件内容について質疑がある場合は、私にメールを寄こすこと。
本日の講義は以上」
最初のコメントを投稿しよう!