一限目 にゃんこ教授とわんこ

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 余った時間で私は、教授に質問攻めを受けていた。 「わんこ君も物好きだな。  講義のためとはいえ。  わざわざ法学部棟から、離れた教室を選ぶとは」 「空いた時間を、無駄にしたくなかったので」 「どんな科目に、興味があるのだね?  履修要項の紙と時間割、貸したまえ」  要項と手帳を見比べていた教授が、ふと顔をしかめる。 「今日の三限だが。  教室を写し間違えているぞ」 「まさか。  いつだって、見直しているはずです」  実際、教授の指摘通りだった。  履修要項と手帳には、不覚にも食い違いが見られた。 「三限の初回、すっぽかしちゃいました」 「落ち込んでいる場合ではない。  その筆跡は、わんこ君の物で間違いないか?」 「言われてみれば。  明らかに、筆圧が濃いような」 「まだ気付かないのか。  時間割は、書き換えられたのだ。  何者かが、文化学部棟の空き教室へ誘導するために」  教授に連れられ、私は学生課へ向かった。 「文化学部棟の、教室使用状況のリストを頼む」  受付係を待つ間、私は教授へ疑問をぶつけることにした。 「講義中とは言えですよ。  まっ昼間に人を箱に詰めて、堂々と廊下でカートを転がすなんて、大胆な犯行ですよね」 「犯人は学内の雰囲気に、よほど上手く溶け込んでいたと見える」 「溶け込んだどころか。  目撃情報すら残さず、空気のように消えちゃったんですよ」 「くっくっ。  G.K.チェスタトンの郵便配達人のようにか?」 「もっと分かりやすい例えでお願いします」 「例えば輸送中の箱が、教科書販売の物と全く一緒ならどうだね」 「まさか!」 「加えて引っ掛かるのが、ボイスチェンジャーだ。  裏を返せば、生の声ではわんこ君に正体がばれてしまうと警戒した。  そんな推理は考えすぎかね」
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