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しばらくして受付の若い女性が、印刷されたA4用紙を持ってきた。
「空き教室に、生徒による予約が入っているな。
申請者は木野樹氷」
「うそっ。
けんかしたからって、そこまで私を怨んでたなんて」
あまりのショックに、しばし言葉を失った。
「だが結局わんこ君を、教室に連れて行く事は無かった。
これは何を意味するのだろうか」
「今分かりましたよ。
木野は、私への憂さ晴らしのために、時間割を書き変えた。
ジュースを買いに行くのを拒んだのは、その時間を稼ぐため。
あらかじめ教室を押さえた理由も、私への嫌がらせの為だったなんて」
「安易に目前の結論へ飛びつくな」
ぽん、と優しく肩を叩かれた。
「探偵を志す者は、感情に判断を曇らされてはならない。
明白な証拠だけに目を向ける、鋼鉄の自制心を身につけて欲しいものだな」
「これ以上に、明白な結論がありますか。
ふむっ!」
私は頬を軽くつねられ、くすくす笑われた。
「手掛かりは全て、揃っているだろう。
まず犯人は、時間割を書きかえるチャンスがあった。
次に拉致を行ったが、傷付ける意思は無かった。
極めつけに、学食での会話とカラフルな紙片」
「全然分かりません」
「我輩のゼミに属する以上、思考放棄は、唾棄すべき事象だ。
とにかく犯人は、わんこ君の友人三人。
動機も分かりやすいこと、この上ない」
「どういう意味ですか?」
「教室を借りた木野。
教科書販売の水野。
勧誘ビラを落とした火野。
見事なチームワークだと言っているのだよ」
ここで四限終了を告げる、チャイムが鳴り響いた。
「そう気を落とすな。
我輩の推理と、論理的思考の正しさはすぐに分かる。
これ以上の講釈を垂れるのは、友人に対して野暮というものだ」
教授は身を翻し、我先にバス停へ向かおうとする学生でごった返す屋外へ消えた
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