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水野が頬を染めて、もじもじと言葉を紡ぐ。
「一度は教室に運んだけれど。
ほら、渋いおじさん副学長いるでしょ。
あの人が、学生課の若い女性と、ねえ。
良い感じの雰囲気になってから、入るに入れなくてさ」
「だからばれずに逃げ出せるように、人が多い大教室前で解放したの」
木野があっけらかんと言い放つ。
「でもどうやって?
人間が入るほどの、大きい箱よ。
いくら講義中とはいえ、廊下を通ったら怪しまれるはずじゃない」
「そこがミソなの。
教科書用の段ボールに入れて、販売員の腕章を着けて実行したわけ」
得意気に木野が、眼鏡をクイッと持ち上げた。
「手帳の時間割は、いつ書きかえられたの?」
「水野と協力して、わんこを自販機におびきだした時」
どうやらみんなに嫌われていたのでは、なかったようだ。
安心すると急に足の力が抜け、へなへなとラグマットに座り込んでしまった。
「コーヒーの件、言いすぎてごめん。
お詫びに高級なフルーツワイン、買ってきたの。
一本空けるまで、家に返さないんだから」
「ちょっと、本当に許してくれてるの?」
結局誕生パーティーは、カーテン越しの空が明るくなるまで続いた。
もっともその頃には、全員がすっかり酔い潰れていたのだが。
騒がしい時間の中、ふと誰かがこの結末を暗示していたような気もした。
でも忘れている位だ。
きっと私にとっては、些細な事だったのだろう。
一限をサボるのは初めてね、と思いつつ私は幸せな気持ちで眠りに落ちた。
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