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私のぼやきが聞こえていたのか。
水野、木野はこっそり目を合わせて含み笑い。
「私達はパス。
新入生の歓迎式典、今週末だし」
「今は発表に向けて、追いこみの時期だから」
文化系サークルの春は、忙しいのだ。
帰宅部の私は、同じ境遇の火野へ付き合う事に決めた。
「いいよ。
四限終わりに、ここの自販機コーナー集合で」
幽霊の存在など、ハナから信じてはいない。
どうせ予定もないなら、火野に付き合うのも悪くは無いだろう。
午後五時の、四号館前はがらんとしていた。
「三階にあるどこかの、窓らしいけど」
建物から少し離れ、窓を見上げる形になる。
視線を三階へ。
次いで右から二つ目の窓に移した時。
危うく叫んでしまいそうになった。
いつに間にか女の子の顔が、じっと私を見つめていたからだ。
目のあるはずの眼窩は、ぽっかりくぼんで真っ黒い闇があるばかり。
火野に視線を走らせると、顔に恐怖の色がありありと見てとれた。
どちらからともなく駆けだし、二度と振りかえることはなかった。
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