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一向に悪びれない火野は、私に観察を促した。
「床一面には、分厚い埃のカーペット。
足跡の類は、見当たらないわね」
「肝心の窓はどうだ?」
「巨大なスチールロッカーで、塞がれている。
床から天井まで、人の入る隙間も無いほどにね」
「ロッカーを調べようぜ」
観音開きの扉に歩みよるより先に、ぶら下がる小さな南京錠に気付いた。
「しっかり施錠されているみたい。
こじ開けられた形跡も無いわ」
「つまり中でかくれんぼは、できなさそうだな」
「ロッカーを動かせば、床に埃の跡が残るはずよね。
跡が無く、部屋の鍵も錆びついている。
つまり人のいた形跡が、全くないわ」
その時背後から、冷たい息のような物が私の首に吹きかけられた。
「きゃっ。
今誰かが、私の首を」
「びびらせるなよ。
エアコンが付けっぱなしになっているだけだ」
私を一喝し、天井の吹き出し口を睨みつける火野。
しかしスイッチは、壁のどこにも見当たらない。
「ロッカーの裏に、隠れてしまってんだろ。
もうこの部屋に用は無い」
火野は私を急き立て、さっさと部屋へ鍵を掛けた。
四階へ昇った私達を待ちうけていたのは、学内で有名な曰くつきの物品だった。
「あの世に通じている、という噂の大鏡だな」
壁にはめ込まれた、古めかしい等身大の鏡を覗く。
中からは腰の引けた火野と、ふいっと目を背けた私が写り込んでいた。
「顔が現れた部屋の、丁度真上に位置するわけね」
「まったく薄気味悪いな」
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