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最後の部屋は、鼻を突くようなつんとした臭いが満ちていた。
「足の折れたイーゼルに、使いかけのペインティングオイル。
美術部でしょうか」
壁には人物画や果物を模写した、キャンバスが掛けられている。
「一枚だけ無断で、壁へ打ちつけられていますぅ」
サークル統括長は、憤怒の表情で覆い布を取り払った。
キャンバス上に、真っ赤なワンピースの女が現れ、彼女はかん高い叫び声を上げた。
「また赤い女ですぅ!
いったい四号館は、どうしてしまったのぉ」
「また面白そうな事件に、首を突っ込んだのか。
犬も歩けば棒に当たる、とはよく言ったものだな?
わんこ君」
教授はけらけらと、心底おかしそうな笑い声を上げた。
午前十一時の教職員ラウンジは、まだ人が少ない。
困り果てた私と火野は、教授を呼びだし協力を求める事にしたのだ。
「倉庫は怪しい物ばかり。
幽霊の正体を、特定できそうにありません」
「余計な物に、注意を取られ過ぎだ」
ぽすん、とレジュメの束で頭を軽く叩かれた。
「火野君。
文化サークル一覧表、持ってないか」
手渡された紙から何かを探すかのように、熱心に見つめる教授。
――探検、散策、アプリ開発、写真、吹奏楽、園芸、フラメンコ、日本舞踊、アニメーション研究、彫刻、天体観測、手話、茶道、絵画、競技かるた、将棋、囲碁、鉄道――
「幽霊がこのサークル内にいるのか?」
火野が不思議そうに首を傾げる。
「今日のゼミで発表予定だ。
火野君も、ぜひ来てくれたまえ。
コーヒー代はおごりにしておこう」
そう言い置いて教授はひらひらと手を振り、教職員室へ通じる階段を下りて行った。
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