二限目 にゃんこ教授と幽霊

12/16
前へ
/116ページ
次へ
 最後の部屋は、鼻を突くようなつんとした臭いが満ちていた。 「足の折れたイーゼルに、使いかけのペインティングオイル。  美術部でしょうか」  壁には人物画や果物を模写した、キャンバスが掛けられている。 「一枚だけ無断で、壁へ打ちつけられていますぅ」  サークル統括長は、憤怒の表情で覆い布を取り払った。  キャンバス上に、真っ赤なワンピースの女が現れ、彼女はかん高い叫び声を上げた。 「また赤い女ですぅ!   いったい四号館は、どうしてしまったのぉ」   「また面白そうな事件に、首を突っ込んだのか。  犬も歩けば棒に当たる、とはよく言ったものだな?  わんこ君」  教授はけらけらと、心底おかしそうな笑い声を上げた。  午前十一時の教職員ラウンジは、まだ人が少ない。  困り果てた私と火野は、教授を呼びだし協力を求める事にしたのだ。 「倉庫は怪しい物ばかり。  幽霊の正体を、特定できそうにありません」 「余計な物に、注意を取られ過ぎだ」  ぽすん、とレジュメの束で頭を軽く叩かれた。 「火野君。  文化サークル一覧表、持ってないか」  手渡された紙から何かを探すかのように、熱心に見つめる教授。  ――探検、散策、アプリ開発、写真、吹奏楽、園芸、フラメンコ、日本舞踊、アニメーション研究、彫刻、天体観測、手話、茶道、絵画、競技かるた、将棋、囲碁、鉄道―― 「幽霊がこのサークル内にいるのか?」  火野が不思議そうに首を傾げる。 「今日のゼミで発表予定だ。  火野君も、ぜひ来てくれたまえ。  コーヒー代はおごりにしておこう」  そう言い置いて教授はひらひらと手を振り、教職員室へ通じる階段を下りて行った。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加