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赤羽部長の招待を受け、私と教授は新入生歓迎式典会場にいた。
週末の昼だが、学内は祭の雰囲気で活気が満ちていた。
フラメンコサークルの催しが始まるまで、あと十分。
「三階の幽霊の話も、聞かなくなりましたね。
火野がお札を破ったから、逃げ出したのでしょうか?」
学生主催の出店で買ったジュースを飲んでいた教授は、盛大にむせた。
「まだ分からないのか。
あれは日よけ代わりのポスターだ」
「ポスターは、急に絵柄が変わったりしません」
「選挙ポスターを思い出してみろ。
歩きながら見ると、晴れの日と雨の日で、表情が違って見えたりするだろう。
ホロウマスク錯視と言うのだがね。
学内で幽霊の顔が、語り手により異なるのも道理。
脳が勝手に表情を想像し、思い込んでいるにすぎないのだからな」
「なるほど。
ポスターを張った後に、ロッカーを設置して忘れられたままだったと」
私は納得し、両手をぽんと打った。
「じゃあなんでお札を破って以降、現れなくなったのですか?」
「テープか糊が乾燥して、ポスターが剥がれたせいだ」
「教授の説が正しいかどうか、今度ゼミで確かめに行きませんか?」
教授の耳には入らなかったのか。
彼女は意地でも、上演プログラムから顔を上げようとはしなかった。
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