二限目 にゃんこ教授と幽霊

16/16
前へ
/116ページ
次へ
 赤羽部長の招待を受け、私と教授は新入生歓迎式典会場にいた。  週末の昼だが、学内は祭の雰囲気で活気が満ちていた。  フラメンコサークルの催しが始まるまで、あと十分。 「三階の幽霊の話も、聞かなくなりましたね。  火野がお札を破ったから、逃げ出したのでしょうか?」  学生主催の出店で買ったジュースを飲んでいた教授は、盛大にむせた。 「まだ分からないのか。  あれは日よけ代わりのポスターだ」 「ポスターは、急に絵柄が変わったりしません」 「選挙ポスターを思い出してみろ。  歩きながら見ると、晴れの日と雨の日で、表情が違って見えたりするだろう。  ホロウマスク錯視と言うのだがね。  学内で幽霊の顔が、語り手により異なるのも道理。  脳が勝手に表情を想像し、思い込んでいるにすぎないのだからな」 「なるほど。  ポスターを張った後に、ロッカーを設置して忘れられたままだったと」  私は納得し、両手をぽんと打った。 「じゃあなんでお札を破って以降、現れなくなったのですか?」 「テープか糊が乾燥して、ポスターが剥がれたせいだ」 「教授の説が正しいかどうか、今度ゼミで確かめに行きませんか?」  教授の耳には入らなかったのか。  彼女は意地でも、上演プログラムから顔を上げようとはしなかった。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加