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白衣の女性が、大の字でうつぶせに倒れていた。
飛び散った血がアスファルトに、点々と赤黒い染みを作っている。
「野次馬多すぎ。
道をあけなさい!
火野は、救急車要請よろしく」
彼女がスマホを取り落としつつ、どうにか119をプッシュする。
その間にも、周囲は騒がしさを増していく。
首を動かさないよう慎重に、負傷者の顔を覗きこむ。
火野の唾を飲む音が、やけにはっきりと聞こえた。
「この人、松塚さんか?」
「そうね。
意識は無いけど、呼吸はしっかりしている」
すっと立ち上がり、私は薬学部棟を仰ぎ見た。
松塚さんの倒れている、ほぼ真上。
建物四階の部屋を見て、思わず目を見開く。
薄緑色のカーテンが、風を受け大きく膨らんでいた。
窓が開きっぱなしになっているのだ。
四階まで、階段を駆け上った私達。
部屋のスライドドアを、火野が思い切り揺すった。
「鍵がかかっている」
「気を付けて。
犯人がまだ中にいるかも」
見ると壁際で、頭を抱えてうずくまっている女性が一人。
「桑咲さん。大丈夫ですか」
「私見たの。
凪が誰かに突き落とされたみたいに、背中から落ちて行くの」
彼女はただ、がたがた体を震わせるだけだった。
これではらちが明かない、と判断したのか。
「わんこ、ちょっと見張っていて」
火野は一目散に、リノリウムの廊下を駆けだした。
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