21人が本棚に入れています
本棚に追加
「嘘っ!
第一希望の刑事訴訟法ゼミ、落選してる」
履修登録のマイページに、一件の通知が来た時。
池を見下ろすカフェテリアの窓際。
私は友人達とランチを共にしながら、春季の時間割を決めている真っ最中だった。
二回生から受講可能な、春季ゼミはほとんどが抽選制。
この有名講師のゼミだけは、絶対に落としたくなかったのに。
「単位さえ取れたら、どうでもいいじゃん?」
「わんこは、いちいちマジメに考えすぎだよね」
「ねえ。
食べ終わったら、教科書買いに行こうよ」
人の憂鬱などどこ吹く風、という調子で。
気の置けない友人三人組は、私の愚痴を華麗にスルーした。
「第二希望も落ちるなんて、信じられる?
てか、わんこって呼ぶな」
犬井一子という名前は、良くも悪くもキャッチーだ。
初対面の会話における、とっかかりとしては重宝するけど。
同時に残りの学生生活における、あだ名も確定してしまう諸刃の剣。
胸のもやもやを振り払うべく、軽く溜息を一つ。
履修登録のページから、手帳に時間割を書き写す作業を再開。
まだ抽選待ちの講義もあるので、シャーペンで薄く書いておくに留める。
「わんこ、水曜の四限空いてるね。
現代ジャーナリズム論、一緒に受けようよ」
火野陽炎≪ひのかげろう≫が、私の時間割を覗きこんで来た。
小柄ながら元気一杯で、放課後は体育会系クラブに精を出している。
「いいよ。
特に受けたい講義も無いし」
二つ返事で了承。
四限目のマスに、講義名を書き込む。
最初のコメントを投稿しよう!