一限目 にゃんこ教授とわんこ

2/13
前へ
/116ページ
次へ
「嘘っ!   第一希望の刑事訴訟法ゼミ、落選してる」  履修登録のマイページに、一件の通知が来た時。  池を見下ろすカフェテリアの窓際。  私は友人達とランチを共にしながら、春季の時間割を決めている真っ最中だった。  二回生から受講可能な、春季ゼミはほとんどが抽選制。  この有名講師のゼミだけは、絶対に落としたくなかったのに。 「単位さえ取れたら、どうでもいいじゃん?」 「わんこは、いちいちマジメに考えすぎだよね」 「ねえ。  食べ終わったら、教科書買いに行こうよ」  人の憂鬱などどこ吹く風、という調子で。  気の置けない友人三人組は、私の愚痴を華麗にスルーした。 「第二希望も落ちるなんて、信じられる?   てか、わんこって呼ぶな」  犬井一子(いぬいかずこ)という名前は、良くも悪くもキャッチーだ。  初対面の会話における、とっかかりとしては重宝するけど。  同時に残りの学生生活における、あだ名も確定してしまう諸刃の剣。  胸のもやもやを振り払うべく、軽く溜息を一つ。  履修登録のページから、手帳に時間割を書き写す作業を再開。  まだ抽選待ちの講義もあるので、シャーペンで薄く書いておくに留める。 「わんこ、水曜の四限空いてるね。  現代ジャーナリズム論、一緒に受けようよ」  火野陽炎≪ひのかげろう≫が、私の時間割を覗きこんで来た。  小柄ながら元気一杯で、放課後は体育会系クラブに精を出している。 「いいよ。  特に受けたい講義も無いし」  二つ返事で了承。  四限目のマスに、講義名を書き込む。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加