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部屋の中、一人の女性が座っていた。
穏やかに差し込む光の中、彼女は本を見ながら、無心に……慣れてないのか、時々眉間に小さなしわを寄せながら、何かを編んでいる。
「あら、お帰りなさい」
視線に気がついたか、ふと彼女は顔を上げ、安曇ににっこりとほほ笑んだ。
「どうしたの? そんなところで」
……学校で、何かあった? と問う彼女……母が死んで、養母がわりの江藤 月子に、ううん……と、安曇は首を横に振る。
「なに、も、ない……よ」
年齢に対して、ややたどたどしい言葉遣いに目を細め、月子はいらっしゃい……と、安曇に手招きした。
しかし、安曇は部屋の入り口で立ち止まったまま、ぎゅっと、唇をかむ。
彼女は大きなお腹をかばいつつ、ゆっくり立ち上がった。
実のところ、もう予定日はとっくの昔に過ぎており、いつ産まれてもおかしくない状況だったりする。
「だ、ダメ……不幸、死、呼ぶ……から……」
引っ込めようと力を入れる安曇の手をつかみ、月子は自分の腹部に無理やり当てた。
「ほら、大丈夫。……何度も言ってるじゃない」
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