ひだまりの記憶

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 体温が伝わり、びくり……と硬直する安曇だったが、次第にその緊張が解けていくのが、月子にも伝わる。  先ほど安曇は否定していたが、学校ではない「どこか」で、誰かに悪意ある言葉を吹き込まれたのだろう……一緒に居るはずの息子や、幼なじみの姿がないことから、またひと騒動あるかもしれない。 「……この子は、ちゃんともうすぐ出てくるわ。皆に……あなたに祝福されて」  大丈夫。この子は、幸せになる。  月子は「未来視(さきみ)」の能力を僅かに持つが、未来は無限の可能性があり……実際は断言できるほど未来視の結果に自信があるわけではない。  それでも、断言して、いいと思った。 「ねぇ、あっくん。お願い」  月子はそっと、お腹に触れる安曇の手を包み込むように、握りなおす。  この「言葉」が、彼を、「縛る」ことになることは、解っていた。  けれど。 「……産まれてくるこの子の、騎士様になってあげてね」  そうまでしても、境遇から「普通」に生きることが危うい彼に、「人の生」を歩む為の理由(かすがい)を、与えたかった。 「ただいまー!」  元気な声の三重唱が玄関に響き、バタバタと廊下をかけてくる。 「雷月(ライゲツ)! どうしたのその泥だらけのずぶ濡れはッ! 永都(ナガト)君と十河(トーガ)君まで!」     
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