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露草
不思議な夜だった。
球簾のような雨が降りそそぎ、庭いっぱいの露草が、滴に揺れていた。
その夜が不思議な夜であることを告げていたのは、その露草だった。空の真中に昇った雨夜の月の下で、鮮やかな青い花は一斉に開いていたのだった。それはまるで、ぽうっと光る無数の蝶々が羽ばたいているようであった。
そんな不思議な夜だったので、私はつい、頷いてしまった。
「謙爾さん。私が死んだら、骨をひとかけら、この庭に埋めてください」
ぽとりと落ちる水のような声で言った、妻のその言葉に。
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