君島沈埋都市

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見回すと海鳥がガラス窓を激しくついばんでいる。 「起きたのならフロアを片付けて」 ひび割れた声が天井から降ってくる。やるせない気分で靴を履く。足跡だらけの紙が散らばっている。ロフトから螺旋階段を降りる間に目を覆いたくなるような惨状を把握した。 「ポカンと呆けてないで手伝ってよ 馬鹿幼児!」 エプロン姿の少女が腰に手を当てている。 「多賀洋治だ。にしても、どうすんだコレ」 焼け崩れた陳列棚や穴だらけの床に踏みつぶされたパンが転がっている。 「黒商人(ブラックセラー)に負けたアンタの責任でしょ」 少女は怒り心頭で店を出ていった。 「おいっ、里奈! 待て、おい!!」 世界が水と油に別れてから十年が経った。 カタリナ群に属する近傍天体が南氷洋に落着し莫大な有機物が流出した。その影響で降りやまぬ雨が地球を毒している。 大陸は裂け、わずかに残った島嶼部と沈埋都市に人々がしがみ付いている。 希少な水と乏しい食料と補完栄養素(オーパスレイヴン)(通称11番)が命をつないでいた。 健康を保っているとはとても言えない。 11番は油と汚水にまみれた土壌に気の遠くなるほどの再処理を繰り返して得られる。ゆえに限定生産品である。慢性的なミネラル不足から来る病気が社会を蝕んでいた。     
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