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「……次に到着するのは終電、凧瀬行き、凧瀬行き……、危ないですので、黄色い
線の内側に入らないようお願いします」
ホームで電車の到着を知らせるアナウンスが流れる。
ぼーっと聞いていると、思考があらぬ方向へ迷走しはじめた。
「(……確か右側から進入してくるんだよな、次の電車)」
何とはなしに、列車がやってくる方向を確認する。
今、自分が立っている位置は、ホームの右端である。
その時点では、列車のスピードは衰えつつも、かなりの勢いで進入してくるだろ
う。
「(もし飛び込んだら、ただじゃいられないよなあ)」
普段の通勤時間でも、ふと頭によぎる感想だ。
けれどこの瞬間、それは甘美な響きに聞こえた。
「(他の人に迷惑かかるかもしれないけど……)」
終電とはいえ、利用客は多少なりともいる。
運行は遅延し、鉄道会社は対応と後処理に追われるだろう。
賠償金もかかるのだろうか。
「(でも楽になれる)」
電車のライトが見えてきた。
「(楽に……)」
電車がホームに到達しようとする。
「(ラクに、なろう)」
体が、ゆっくりと前のめりに倒れる。
警笛は鳴らない。
ただ身体と電車がゼロ距離に近付く。
「(死……)」
一瞬、その単語が頭に浮かんで……意識が途切れた。
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