第一章 プロローグ

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「……次に到着するのは終電、凧瀬行き、凧瀬行き……、危ないですので、黄色い 線の内側に入らないようお願いします」 ホームで電車の到着を知らせるアナウンスが流れる。 ぼーっと聞いていると、思考があらぬ方向へ迷走しはじめた。 「(……確か右側から進入してくるんだよな、次の電車)」 何とはなしに、列車がやってくる方向を確認する。 今、自分が立っている位置は、ホームの右端である。 その時点では、列車のスピードは衰えつつも、かなりの勢いで進入してくるだろ う。 「(もし飛び込んだら、ただじゃいられないよなあ)」 普段の通勤時間でも、ふと頭によぎる感想だ。 けれどこの瞬間、それは甘美な響きに聞こえた。 「(他の人に迷惑かかるかもしれないけど……)」 終電とはいえ、利用客は多少なりともいる。 運行は遅延し、鉄道会社は対応と後処理に追われるだろう。 賠償金もかかるのだろうか。 「(でも楽になれる)」 電車のライトが見えてきた。 「(楽に……)」 電車がホームに到達しようとする。 「(ラクに、なろう)」 体が、ゆっくりと前のめりに倒れる。 警笛は鳴らない。 ただ身体と電車がゼロ距離に近付く。 「(死……)」 一瞬、その単語が頭に浮かんで……意識が途切れた。
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