アイリスの花を貴方に

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 そう、男は思っていた。  だが、男の妻に対する愛は強く……重たかった。  妻の死により生きる希望を完全に失ってしまう程に。  どこまでも愛おしく、守るべき対象である(アイリス)が。  ―――妻を殺したと恨んでしまう程に。  勿論、その考えが愚かなことは頭で理解している。  しかし、頭では理解できていても心では理解できない。  娘の顔を見るたびに、何か得体のしれないものが心の中でのたうち回るのだ。  それが憎しみなのか、それとも妻の面影を見たことでの悲しみなのか。  それは分からない。ただ、一つだけ分かっていることはあった。  ―――自分は娘を愛していないのだと。 「すまない……こんなことは君とアイリスへの裏切りなのに」  男だって娘を愛したい。  普通の親子らしく心からの笑顔で娘を抱きしめたい。  だというのに、この心はそれを許さない。  妻が何よりも大切だったから、それを奪った存在を赦せない。  こんな恨みは何の意味もなく、その妻が望んでいないことなのは明らかなのに。  娘を抱きしめてやることが出来ない。
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