【1】 白昼夢のように

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【1】 白昼夢のように

 彼は、人として最低だった。  呼吸をするように嘘をつき、女癖が悪く、人を傷つける言葉ばかりを吐いた。  彼は気まぐれに文章を書き、それで生計を立てていた。彼の文章は一部の熱狂的支持を受けたが、良識ある人間のほとんどが、彼の文章を目にしただけで眉を顰めた。  そんな彼と私がどういう関係であったかというと、どういう関係であったわけでもない。  ただ、同じ場所に居合わせるということが運命的に多かっただけで、本当に何の関係もなかった。  さして目立たない私を、彼は気にも留めなかったし、私もまた、彼には何の興味も持たなかった。私は常に自分を高みへ持ち上げることに必死で、彼のような人間にかまけている暇など少しも無かったのだ。  しかし不思議と、目が合う回数は多かった。  ふと目をやった先に相手が居て互いに驚いたことは、一回や二回ではなかった。そのせいで、私達は否応にも互いを覚えることになった。
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