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マコトは目を剥いて息を止めて水島を凝視した。僕からそのことは伝えてあったけれど、まさかやった本人がぬけぬけと言ってくるとは思わない。
「相手が同意していないのに、そういうことはするべきじゃない」
マコトはどきまぎしながら言う。堪えきれない怒気が言葉の端々に滲み出ている気がして、寒気すら感じた。それなのに、水島は暢気に続ける。
「でもミコ先輩の同意を待ってたら、一生出来なかったと思います。俺、ミコ先輩見てると、相手に……やえちゃん先輩に殺されてもいいから、一歩踏み込もうかなってグラっと来ちゃう時あるんですよね」
えへへ、と満面の笑みで恐ろしいことをのたまう。
「ミコ先輩ガードが固いから、今のところほっぺにちゅーが限界ですけどね……」
「……」
笑った形の唇とは違い、流れる視線の中に含みがあるように感じて、緊張する。しかし、キョーチ! と呼ぶ中野の声に元気よく返事をして、さっと水島は席を外した。
マコトは俯いて、滅多に見たことが無いような暗い顔つきに変わっている。
「……明日から復学する」
とぼそりと呟いたマコトを、うまく説得できる自信はまったく持てなかった。
会は進行役が居ることもあって、決められた時間きっかりで終わった。
取りまとめてくれているドクターが二次会に行く人数を点呼しはじめるのを遠巻きに見ていると、後ろから袖を引かれた。
教授に挨拶をしてから帰宅したいところだったけれど、目立つマコトと一緒だと難しいので仕方ない。いつの間にか、こういう場から抜け出すのが上手くなった背中を苦笑しながら追った。正面玄関よりも、裏手の地下にある車寄せからタクシーに乗った方がいいかな、と思っていると、マコトは反対方向のエレベーターホールで、上のボタンを押した。
「マコト、どこいくの? マンションにはまだ帰れな……っん、ぅ」
エレベーターに乗り込もうとするマコトの袖を引くと、扉が閉まると同時に肩を抱かれて中の壁に押しつけられた。
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