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大きい瞳、ぷっくり膨らんだ健康的な唇、すらりと伸びた手足、そして栗色のポニーテール。
竹を割ったような性格で男っぽい喋り方をする彼女は男女ともに人気があるのだが、彼女に関する浮いた話は一度も聞いたことがなかった。
ふいにさっき見てしまった生々しい女の姿をした千里が頭の中で浮かび上がった。舌を這わせ、体を絡ませ、お互いを求めて合っている。そして平田の光る指輪。
心の深い場所からドロドロとした嫌な感情が湧き出てくる。
「そういえば去年は惜しかったよなー。あと一つ勝てば甲子園だったもんな」
「……」
「今年は甲子園行けよ! 染谷!」
千里は口の端を上げ、にっと笑った。
そのとき、ふと貴女の顔と千里の顔が重なって、頬を一筋の涙が伝っていくのに気が付いた。
「え、ちょ、染谷? どうしたんだ?」
それを見た千里が慌てて、俺の方へ近づいてくる。腕で顔を隠し、もう片方の手を広げ、千里に「くるな」と制止させた。
そう
あの時、貴女も健気に振る舞っていた
こんなことどうってことないのよって
そんなはずないのに
悲しくて寂しくてぐちゃぐちゃだったはずなのに
その時、先程よりも雨が激しさを増し、ざんざんと強く降り始めた。風でカーテンが揺れ、教室内に雨が降りこんでくる。
窓にバシバシと吹き付ける音、教室の床にぼたぼた零れ落ちる水滴、大きな雨粒にされるがまま打たれ続ける青葉、その不協和音が感情のコントロールを失わせる。
「……っ、ううっ」
とうとう我慢ができず、ぼろぼろと涙が零れ出てしまった。
千里はどういう顔をしているだろう。涙でその姿を視界に捉えることができない。
その時、がらっと窓が開き、ガンとサッシに当たる音が耳に届いた。教室内に響き渡る雨音が急に大きくなる。
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