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なーんて、ね。くすっ。さあ、また新しい男……もといご主人様に会いにいくわよ。
え? アタシが実はただの男好きなんじゃないかって? ひどい言い草ね。ソラから見たアタシの姿はだいたい合ってると思うわよ。
アタシは青々とした草木が生い茂っている庭へと潜り込んだ。雨粒が葉脈を流れ、葉がピンと空へ跳ね上がる。
「ねーパパぁ、お庭に猫ちゃんがいるー」
西洋風のお家から子供の声が聞こえてきた。ウッドデッキに可愛らしい女の子が立っている。
「ほんとだね。栗色の可愛い猫ちゃんだ」
後ろからもう一人、パパと呼ばれた人物が姿を現した。目鼻立ちが整った端正な顔、全体的にすらっとした体。そして吸い込まれそうなほどの碧い瞳。
あら、すごくいい男。ハーフなのかしら。
アタシはウッドデッキを駆け上がり、男の足に体を擦り付けた。男はしゃがみ、ゆっくりと手を伸ばす。アタシの頭、胴体、しっぽを流れるように撫でていく。その時、ふわっと「女の匂い」が鼻を掠めた。アタシの頭に電流が走る。
この慣れた手つき、相当遊んでるわ。そしてこの女の匂い、恐らく奥様じゃないわね。これは若くて瑞々しい女の匂い。きっとまだ男を知らない女の子の身体を、その手で弄んでいるのね。
ぽつっと一粒の雨滴がアタシの頭に落ちてきた。すると追いかけるようにぽつっぽつっと細い雨が降ってくる。
「パパーっ、また雨が降ってきたー」
「咲良。もうお家へ帰りなさい」
「はーい」
「それから、タオルを一枚持ってきてくれるかな?」
「うん、分かったー」
ウッドデッキに残された男とアタシ。男は口の端を上げてにっこりと微笑む。その風貌はうっとりするほど美しくて背筋が凍るほど恐ろしかった。
でも相手にとって不足はなし。ソラは純朴すぎて飽き飽きしてたし、今度はこの手強そうな男を虜にしてみせるわ。
アタシはウッドデッキの床にバタンと栗色のしっぽを叩きつけた。
「パパーっ、タオル持ってきたよーっ」
「ありがとう」
男はタオルを広げ、「さあ、おいで」とアタシに囁いた。
男の左手薬指にはめられている指輪が雨粒に濡れて光って見えた。
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