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「ただいまー」
啓介が玄関扉を開けて言う。スポーツバックとスーパーの袋を玄関先に置いていると、二階から軽い足音が聞こえてきた。
「けいちゃん、おかえり」
軽快に階段を降りてきたのは、啓介の弟であり、三男坊の一樹だ。
一樹は玄関マットの上に置かれたスーパーの袋を見て、上がり框に座って靴を脱いでいる啓介に問い掛けてきた。
「買い物行ってきたの?」
「ああ。兄貴、大学の帰り遅くなるんだって」
靴を脱ぎ終えた啓介が、荷物を再び持ち上げた。
「だから、晩飯は俺が作っから。今から作るし、ちょっと待ってろよ」
「あ、けいちゃん」
一樹に呼び止められ、リビングへ行こうとしていた啓介が振り返る。
「どした?」
「あの、僕の授業参観なんだけどね。廉兄ちゃんが来てくれるって」
「兄貴が?」
一樹から出てきた名前に、啓介は身体ごと末っ子に向き直った。
「うん。でも…、兄ちゃんその日誕生日なのに…」
一樹が物憂げな顔で呟く。啓介には弟の憂える気持ちが手に取るようにわかった。
「なぁ一樹、その話、俺に任せてくれねぇか? 兄貴と話してみる」
「え? うん!」
まだまだいとけない顔にぱっと喜色を広げ、一樹が大きく頷いた。
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