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「だから、私は……天瀬君のことが好きっ。よかったら付き合ってください」
「悪い。俺はお前をそういう対象として、見ることは出来ない」
使い古された言葉で、聞き飽きた言葉に応える。
目の前の女子はゆっくりと息を吸い込むと、やがて目元をくしゃりと歪ませ――一生懸命に、作り笑いを浮かべた。
「そっか。うん、そっか……あはは。うん、ありがと」
「礼を言われるようなことはしてないよ」
「あ。そだよね。えっと……それじゃ、私、行くから」
「ああ。好きだと言ってくれて、ありがとう」
「――ッ」
口元だけを曲げて、足早にかけていく女子。溜息とともに、呼び出された校舎裏を後にする。
〝――ごめんなさい、圭。ごめんなさい――――〟
――いつも以上に上の空だったのは、昨日の一件が頭を離れないからだ。
突然現れた魔女。突然の口付け、そして突然の発光。
あれは一体何で、一体どんな意味があったのか。
「随分、素っ気ないんだね。君が告白断ってるとこ、初めて見たけど」
――なんだ。今日はやたら「揺さぶり」をかけてくる奴が多いな。忙しいのに。
声がした方に視線を投げる。放課後になり人通りも滅多にないはずの一階職員室前の渡り廊下。そこから顔を出した担任が、神妙な顔でこちらを見つめていた。
「……何か用ですか、先生」
「え、あ。や。ごめんね。ナイーブなとこに話しかけちゃって」
「別に。ナイーブなのはあいつの方でしょう」
「だって圭君、落ち着かなさそうな顔してるじゃない」
…………。
「相手のまっすぐな気持ちを拒否するんだもんね、やっぱり圭君も動揺しちゃうよね」
「………………」
「え。ご、ごめんって。そんな怒んないでよ」
「……何か用ですか。先生」
先の言葉を繰り返し、用がないなら去れと暗に示す。
担任はそんな心中を知ってか知らずか、困惑した顔であたふたし始める。
何がしたいんだ、この人は。
「……何もないなら失礼します」
「昨日の、ことなんだけど」
――体が硬くなるのを感じた。
振り返る。担任は、何か意を決したように俺の目を見つめた。
「……昨日、というのは」
〝――――『リセル』〟
「昨日先生、帰りに交番の前で倒れてるうちの生徒を見つけたの。その時、走っていくあなたの後ろ姿を見た気がしたんだけど……何か心当たりある? 怒ってるわけじゃないから、正直に教えて欲しいんだけど」
……担任に気付かれないよう、静かに安堵した。
〝――ごめんなさい、圭。ごめんなさい――――〟
「覚えがないですね。すみません、体調が悪いのでこれで」
「あ、圭君っ」
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