第1話 触れる唇、つながる体は其の者の名を

2/10
前へ
/2593ページ
次へ
 少女の唇が、か細く激しく、俺の唇を奪う。  荒い鼻息。長い睫毛(まつげ)鼻腔(びくう)をくすぐる少女の香り。遅れてやってくる、唇の感触と事実の衝撃。  飛びあがる心臓。逆立つ神経。体を硬直(こうちょく)させ、少女を引き()がそうとするが――――押し付けられる唇の強さに、柔らかさに。少女の細く白い手に両腕を(つか)まれているだけだというのに、俺はそれを振り(ほど)くことが出来ない。  重ねた唇へ、少女の()れた髪から雨粒(あまつぶ)(したた)り落ちた。  ほんの数秒前まで、俺は――――死を目前にした、ただの子どもだったというのに。  光が覆う。少女の体が光の粒子(りゅうし)を帯び、俺をも包み込んでいく。  それでも少女は唇を離さない。ただ切に、切に――――その口付けで(つな)ぎ止めるように、俺を求める。  やがて、光が俺を運ぶ。  体は彼方(かなた)へ、意識は記憶へ。数時間前の俺へ。  そして、すべての始まり(あのときの少年)へ――――。
/2593ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1822人が本棚に入れています
本棚に追加