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少女の唇が、か細く激しく、俺の唇を奪う。
荒い鼻息。長い睫毛。鼻腔をくすぐる少女の香り。遅れてやってくる、唇の感触と事実の衝撃。
飛びあがる心臓。逆立つ神経。体を硬直させ、少女を引き剥がそうとするが――――押し付けられる唇の強さに、柔らかさに。少女の細く白い手に両腕を掴まれているだけだというのに、俺はそれを振り解くことが出来ない。
重ねた唇へ、少女の濡れた髪から雨粒が滴り落ちた。
ほんの数秒前まで、俺は――――死を目前にした、ただの子どもだったというのに。
光が覆う。少女の体が光の粒子を帯び、俺をも包み込んでいく。
それでも少女は唇を離さない。ただ切に、切に――――その口付けで繋ぎ止めるように、俺を求める。
やがて、光が俺を運ぶ。
体は彼方へ、意識は記憶へ。数時間前の俺へ。
そして、すべての始まりへ――――。
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