第2話 魔女のいざない、俺は何も知らぬまま

12/12
1825人が本棚に入れています
本棚に追加
/2593ページ
 ――いや。そういえば俺はたった今、不思議の国に迷い込んだところだった。 『わわわわわわわわわわわ?!! 落ちてきます、落ちてきちゃいますよ先生っ!!』 『くっ……ええい、ままよ!』  スライムが一斉に弾けた。 「!?」  張力を失ったスライムは、全てただの水の塊と化す。空中で水のトンネルをたっぷりとくぐり、全身水(びた)しになって落下する。  思っていたより早く、地面は間近に迫っており――真下には、両手を広げてこちらを見る金髪の女性の姿。  馬鹿っ、こんな高さから落ちる男を女一人で受け止めたりしたら怪我(けが)を――!! 『きゃあっ!』  案の定、俺を受け止めてよろけた女性と共に、水浸しの芝生(しばふ)へと転倒する。  俺の顔はぬかるんだ土へと突っ込み、体はぬるぬると柔らかい泥へと触れる。俺は今度こそしっかりと地面を掴んで―――― 『ひゃあぅひっ!!?』  ――――地面を、掴んだはずだった。 『だっ、大丈夫ですか先生、と…………?!?』  異質の感触。泥とは明らかに違う微かな弾力、熱、そして柔らかさ。  泥から顔を上げる。目に映るのは涙目の美女の顔。水に()れ、うっすらと()けた服。  そんなことは問題じゃなくて。  地面にあると思われた俺の体は、左手を通して金髪の女性――――の、胸部――――に、思いきり、預けられていた。  金髪の女性と交わる視線。紅潮する彼女の(ほお)。そんな俺の後ろから――――先の赤い男から感じたものと、違うが同じ敵意の気配。  振り返る。そこには、赤い髪を熱された鰹節(かつおぶし)のように揺らしながら、体を(ふち)取る赤い発光に身を包んだ少女が、 『あ――――あんたっ、』  憤怒(ふんど)羞恥(しゅうち)をその顔に(たぎ)らせて、 『先生に何やってんのよこの不審者(ふしんしゃ)アァァァァ――――ッ!!』  猛獣(もうじゅう)のように、俺へと襲い掛からんとしてた。
/2593ページ

最初のコメントを投稿しよう!