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――いや。そういえば俺はたった今、不思議の国に迷い込んだところだった。
『わわわわわわわわわわわ?!! 落ちてきます、落ちてきちゃいますよ先生っ!!』
『くっ……ええい、ままよ!』
スライムが一斉に弾けた。
「!?」
張力を失ったスライムは、全てただの水の塊と化す。空中で水のトンネルをたっぷりとくぐり、全身水浸しになって落下する。
思っていたより早く、地面は間近に迫っており――真下には、両手を広げてこちらを見る金髪の女性の姿。
馬鹿っ、こんな高さから落ちる男を女一人で受け止めたりしたら怪我を――!!
『きゃあっ!』
案の定、俺を受け止めてよろけた女性と共に、水浸しの芝生へと転倒する。
俺の顔はぬかるんだ土へと突っ込み、体はぬるぬると柔らかい泥へと触れる。俺は今度こそしっかりと地面を掴んで――――
『ひゃあぅひっ!!?』
――――地面を、掴んだはずだった。
『だっ、大丈夫ですか先生、と…………?!?』
異質の感触。泥とは明らかに違う微かな弾力、熱、そして柔らかさ。
泥から顔を上げる。目に映るのは涙目の美女の顔。水に濡れ、うっすらと透けた服。
そんなことは問題じゃなくて。
地面にあると思われた俺の体は、左手を通して金髪の女性――――の、胸部――――に、思いきり、預けられていた。
金髪の女性と交わる視線。紅潮する彼女の頬。そんな俺の後ろから――――先の赤い男から感じたものと、違うが同じ敵意の気配。
振り返る。そこには、赤い髪を熱された鰹節のように揺らしながら、体を縁取る赤い発光に身を包んだ少女が、
『あ――――あんたっ、』
憤怒と羞恥をその顔に滾らせて、
『先生に何やってんのよこの不審者アァァァァ――――ッ!!』
猛獣のように、俺へと襲い掛からんとしてた。
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