第1話 触れる唇、つながる体は其の者の名を

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◆     ◆  嗚咽(おえつ)を上げながら、ボロボロと涙を流す少年の後ろ姿を見ている。  その子どもは体中が傷だらけだ。泥だらけで服は破れ、所々は切れて擦り()いて血が(にじ)み、前歯は抜けて無くなっている。  酷くみっともない姿で、ひっきりなしに吃逆(しゃっくり)を繰り返しながら――ただ純粋に、これまで感じたこともない体の痛みに、目の前に母と妹がいるとてつもない安心感に、達成感に、泣き続ける。 「あんなに体の大きな高校生に飛びかかっていくなんて。あなたはまだ8才なのよ? 下手したら、もっと大きなけがだって――」 「だってっ……メイがあぶなかったんだ」  嗚咽を(おさ)え、そう口にする少年。少年の目は、母親に寄り()い、その服の(すそ)(にぎ)()める妹へと向いた。  少女も目に涙の(あと)を残し、髪には引っ張られたような乱れがある。  母は床を見つめる娘の頭を()で、困ったような、陽だまりのような微笑(ほほえ)みを少年に向けた。 「……私とそっくりね。あなたはお母さんと同じ……いいえ。お母さんよりも大きい、大きい優しさを持っている。それがお母さんは、たまらなく嬉しいの。ありがとう、圭」  母の手が、少年の胸に触れる。少年は涙の流れる顔で(あふ)れんばかりの笑顔を浮かべ、誇らしげにその手を両手で覆う。  そんな兄と母の様子に、安堵(あんど)を覚えたのか。妹も顔を上げて笑い、兄の腕をとる。 「ありがとう、けいにーちゃん」  ――家族が、少年の(ほこ)りだった。 「うん。いいんだよ。任せて、メイ。母さん」  ――家族が、少年の生きる理由だった。 「ずっとずっと、おれがまもるよ。父さんも母さんも、メイも!」  ――家族が、俺のすべてだった。 「やくそくするから!」
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