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嗚咽を上げながら、ボロボロと涙を流す少年の後ろ姿を見ている。
その子どもは体中が傷だらけだ。泥だらけで服は破れ、所々は切れて擦り剥いて血が滲み、前歯は抜けて無くなっている。
酷くみっともない姿で、ひっきりなしに吃逆を繰り返しながら――ただ純粋に、これまで感じたこともない体の痛みに、目の前に母と妹がいるとてつもない安心感に、達成感に、泣き続ける。
「あんなに体の大きな高校生に飛びかかっていくなんて。あなたはまだ8才なのよ? 下手したら、もっと大きなけがだって――」
「だってっ……メイがあぶなかったんだ」
嗚咽を抑え、そう口にする少年。少年の目は、母親に寄り添い、その服の裾を握り締める妹へと向いた。
少女も目に涙の痕を残し、髪には引っ張られたような乱れがある。
母は床を見つめる娘の頭を撫で、困ったような、陽だまりのような微笑みを少年に向けた。
「……私とそっくりね。あなたはお母さんと同じ……いいえ。お母さんよりも大きい、大きい優しさを持っている。それがお母さんは、たまらなく嬉しいの。ありがとう、圭」
母の手が、少年の胸に触れる。少年は涙の流れる顔で溢れんばかりの笑顔を浮かべ、誇らしげにその手を両手で覆う。
そんな兄と母の様子に、安堵を覚えたのか。妹も顔を上げて笑い、兄の腕をとる。
「ありがとう、けいにーちゃん」
――家族が、少年の誇りだった。
「うん。いいんだよ。任せて、メイ。母さん」
――家族が、少年の生きる理由だった。
「ずっとずっと、おれがまもるよ。父さんも母さんも、メイも!」
――家族が、俺のすべてだった。
「やくそくするから!」
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