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「約束したでしょう? その金髪、三年生になったらちゃんと黒に戻すって」
「そうでしたっけ。忘れました」
「圭君!」
いつもずれている丸眼鏡を掛け直しながら、担任が力なく凄む。高校三年になるが、この人の凄味の無さは変わらない。
担任が溜息をついて威圧を諦め、椅子に座り直す。眼鏡はもう鼻まで擦り落ちていた。
「あのねえ、圭君。もう何回も言ってきたけど、二年生秋までの成績見てたら、十分いい大学狙えるんだよ? 部活後に追い上げてくる人もいるんだから、もう一度しっかり頑張って、」
「言ったでしょう、進学はしないって」
「いくらなんでも冬から成績が落ちすぎ。意図的にやってるとしか思えない」
「やってます」
「素直か! じゃなくて、あーもー……そして、これは何?」
担任が机を示す。
そこには白紙のままの、進路調査用紙。
「ちゃんと書いてたじゃないですか。突き返してきたのは先生ですよ」「バカにしないで。もう二年間も担任してるのよ? あなたが警察官になる気なんて微塵もないのくらい、分かります。警察関係の進路の資料にまったく興味持たなかったじゃない。ほんと、詰めが甘いというか、分かってて詰めてないというか。将来のこと、まじめに考えてるの?」
「…………」
考えた。
考えた結果、何も書けなくなった。
俺の「将来」はもう、消えて無くなってしまったから。
「――帰ります。これ以上続けても不毛なの、解ったでしょう」
「あ、ちょっと圭君! 話はまだ終わってないよ!」
「行かないと。友達と会う約束があるので」
鞄を取り、担任の声を無視して出入り口へと向かう。
引き戸の取っ手に手をかけた時、彼女の声のトーンが変わった。
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