第1話 触れる唇、つながる体は其の者の名を

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「はい……去年の冬から一切勉強をしなくなったみたいで。そのくせ……見てくださいコレ!」 「どれどれ……ははは! こりゃ面白い。全教科きっちり赤点プラス一点じゃないですか」 「器用なのか不器用なのか……おちょくってるとしか思えません」 「ああ見えて、構ってほしいだけかもしれませんね。彼って確かもう、施設(しせつ)を出ちゃってるんですよね」 「は、はい。高校入学と同時に」 「ああ、知ってます。施設長がずいぶん止めたらしいですよぉ、高校卒業までは居ていいって。あの年頃の男子が一人暮らし三年目……辛いことはあるでしょうね」 「でも、構ってほしいだなんて」 「しかも火事で家族をみんな亡くしてるんですよね? 十年前ですっけ……きっと愛情に飢えてたり、まだ傷が()えていなかったりするんだと思いますよ」 「……そうなんですかね、やっぱり。十年前の」 「こう言うと不謹慎(ふきんしん)ですが。話せば話すほど、出来すぎた境遇の奴ですな」 「外から眺めてる分にはねぇ」 「そうですね。でもだからこそ、少しでもあの子を……」 (…………あの子の内側を……いいえ、()を理解したい。力になりたいって、思うの)
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