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その人は、ブラウスの下に変わったズボンを着ていた。腰がだぼっとしているわりに裾が細い、厚い布でできている。
そう、確か社会の教科書の写真で見たことがある。戦争中、女の人が着ていたものだ。たしかモンペっていう……
今時なんでそんな服を着ている人がいるんだろう? ドラマか何かの撮影? でも、カメラやマイクを持った人は見なかった。
よく顔を見ようとして、僕は息を呑んだ。なにか病気にかかっているのか、彼女の顔は半分だけ茶色に染まっていた。
(あれはシミ? それとも血?)
なんだかとても痛そうで、僕は思わず顔をしかめた。
「もーいいかい」
モンペの女の子とは違う声がした。
ゾンビのようにふらふらと、僕より小さい女の子が歩いている。はだしのその子は、ちぎれた服を着ていた。その服は、茶色に染まっている。
古い血は、漫画のように真っ赤じゃなくてこんな色になる。前に指をカッターナイフでちょっと切ったとき、血をシャツにつけてしまったことがあるから、僕はそれを知っていた。
ようやくそこで僕は、おかしいことに気がついた。
この子たちは、今生きてる人じゃない! もう死んでいる人だ!
『あまり山の奥には行ってはいけないよ。人ではないものがいるからね』
お婆ちゃんの言葉を思い出した。
これがおばあちゃんの言っていたチミモウリョウという物だろうか?
合わせた膝ががくがくと震えた。息も鬼たちに聞こえてしまいそうで、口を押える。指の間から、自分の吐く息がなんども抜けて行く。
「もーいいかい」
また、新しい声がした。
ざわざわと、草をかき分ける音がいくつも聞こえた。あちこちに人が立っている。並んだ木の幹や、伸びた草、ちらちらする木漏れ日なんかにジャマされて、はっきりとは見えなかったけれど、間違いない。
囲まれている! どうしよう、どうしよう!
くぼみの中が、急に暗くなった。日差しを遮るようにして、小さい影が僕の方をのぞきこんでいる。
(見つかった!)
そう思うけれど、「みーつけた」は聞こえてこない。
僕は手の平で影を作り、目を細めて前に立っている人を見た。僕よりも背の高い、やせ細った男の子。
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