第1章

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 その子は目隠ししているように、黄色い膿(うみ)と、血に汚れた包帯をしている。まるで平泳ぎでもしているように、手で前を探りながら近づいてくる。きっと、目が見えないのだろう。だから僕はまだ見つかっていないのだ。  ぼろぼろの唇が開いた。 「もーいいかい」  酷いカゼを引いているように、がらがらの声だった。 (ひ……っ) 慌てて穴から出ようとして、僕は外にいる女の人の事を思い出した。もしここで飛び出したら間違いなく見つかってしまう!   それに、急に立ち上がってあの男の子に触ってしまったら、見つかってしまう。 (落ち着け、落ち着け)  僕はそう自分に言い聞かせた。 できる限り音をさせないようにしながら、穴の壁に貼り付く。土で汚れた細い指が、今にも僕の鼻を、頬をかすめようとする。爪と指の間に挟まった土まで見えるくらいだ。  座ったまま、地面についたお尻をするようにして、僕は男の子の正面から体を横にずらした。やせこけた男の子の手は、頭の真横の空間をふらふらしている。  そのまま這うようにして僕はその穴からはい出した。足ががくがくして立ち上がれなかった。顔のすぐそばにある草がイヤな臭いをたてる。  ハイハイのままで前に進む。周りには、まだ「鬼」がいるのが分かった。  だめだ、もうつかまっちゃうんだ。  ぼろぼろと涙が流れだした。しゃっくりが出てきて止まらない。  目の前に、モンペの女の子の後ろ姿が見えた。ラッキーなことに、まだ僕には気づいていない。このままそっと逃げてしまえば……  目隠しの男の子が穴から出てきたのだろう。後でばさばさと草がひっかき回される音がする。  その音に前に立っているモンペの女の子が、こっちを振り向きかける。しゃがんだ格好にはなっているけれど、完全に草に隠れられるほど僕の体は小さくない。こっちを見られたら、絶対に見つかってしまう! 一つにまとめた髪から女の子の耳が見え、頬の膨らみが見え…… 「うわあああ!」  ケンヤの悲鳴がした。  山の上から、涙でべちゃべちゃになったケンヤがかけおりてくる。  こっちを振り返ろうとしていたお姉さんは、僕ではなくケンヤの方をむいた。 「ショウ! なんだよこいつら! なんか変な奴らがいっぱいいるよ!」  僕の姿を見つけたケンヤが叫んでくる。
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