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捕まっている間に弱ってしまったのか、一匹が地面に落ちた。
そのセミは、羽に火でも付けられたように、地面の上をぐるぐる円を描いて回りだす。ジジジジ……と勢いよく動き回るセミは、なんだか今にも襲い掛かってきそうで、少し怖し怖い。僕は思わず後ずさった。
そのとき、後ろに誰かがいるような気がして、振り返る。
いつの間にか、ランニングに半ズボン姿の男の子が立っていた。歳は僕と同じくらいだろうか。背は低くて、なんだかやせっぽちだ。
毎年来ているので、この辺りに住んでいる同い年くらいの子も何人か見たことはある。けれど、初めて見る子だった。
その子はしばらくこっちをじっと見ていた。
「なに、どうしたの?」
男の子に気づいたケンヤが近づいてきた。
ジジジ……ジジ……
地面で暴れていたセミの元気がだんだんとなくなっていって、最後には静かになっていた。たぶん死んでしまったのだろう。頭のすみっこで、ちょっとかわいそうなことをしたと思う。
「あのお……」
恐る恐るという感じで、ようやく男の子が声をかけてきた。
「二人でなにしてるの?」
少しの間、僕たちは黙り込んだ。
大人たちはよく「知らない人に声をかけられても返事をしちゃいけません」なんていう。でもそれは悪い大人に誘拐されたり殺されたりしないための物だ。じゃあ、知らない子供に話しかけられた時はどうなんだろう?
「僕はカズオっていうんだ。このすぐ上に住んでるの」
いきなり声をかけられて、僕たちがとまどっているのに気づいたのだろう。カズオ君というらしい男の子は、自己紹介をして自分は悪い人ではないと僕らに分かってもらおうとしているようだった。
僕はカズオ君がさしている指の方を見た。こんな山奥に家があるのかと思ったけれど、地元の子が言うならそうなのだろう。
そういえば、知らないうちにだいぶ山の奥まで入り込んでしまった。これは結構まずいんじゃないかな?
(山にはチミモウリョウが――)
「ねえ、二人で何をしていたの?」
思い出しかけたおばあちゃんの言葉は、カズオ君の言葉にかき消された。
「なにって、セミ捕まえてたんだ」
ケンヤが手に持った網を少し男の子に近づけてみせた。
「セミ? でも一匹もいないじゃないか」
男の子は僕たちが下げている水槽をちらりと見た。
なんだか少しバカにされた気がして、僕はちょっとむっとした。
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