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「さっきまでたくさんいたんだよ。かわいそうだから逃がしてやったんだ」
(一匹は死んじゃったみたいだけど)と心の中でつけたす。乾いた地面の上で、死んだセミが転がっているのが見えた。
「へえ。そんなに捕まえたんならさ、もう虫とりはやめて僕とかくれんぼしようぜ! そっちの方が絶対おもしろいって!」
とカズオ君は楽しそうに言った。
(どうしよう?)
僕たちは顔を見合わせて、目だけで話し合った。
でも確かに、そろそろセミ採りも飽きてきた所だ。
この子も悪い子には見えなかったし、きっと遊ぶ人数は多いほうが楽しい。
「うん、いいよ」
僕らの言葉に、カズオ君はにっこりと微笑んだ。
「それじゃまず鬼を決めないと!」
ケンヤが言う。
じゃんけんをした結果、カズオ君が負けて鬼になった。
「うわあ、負けたぁ」
カズオ君はちょっと残念そうに言った。
「それじゃあいくよ。い~ち、に~い、さ~ん……」
こっちに背をむけ、幹に顔をくっつけるようにして、カズオ君はカウントダウンを始める。
早く逃げないと!
なんだかとってもドキドキしてきた。笑いたくなったけれど、声で鬼にどっちの方向へ逃げたか分かってしまうかも知れない。僕たちは口を押えてにやにやしながら走り出した。
僕はがさがさと繁みを突っ切りながら隠れ場所を探していた。早くしないとカズオ君が数え終わってしまう! 街の中と違って、山の中は意外と隠れられそうな場所がなかった。壁もなければ、自販機もない。
ケンヤはどこに隠れたんだろう? 探してみると、すぐ近くの木の後ろに隠れていた。幹があんまり太くないので両方の肩が見えている。僕は思わず笑いそうになった。
でも、ケンヤのことを気にしている場合じゃない。僕も早く隠れないと!
僕は茂みの中にしゃがみこんだ。いきなりでかい奴が来て驚いたのか、羽虫がいっぱい顔に飛んで出て、僕は手の平で払いのけた。
「ろ~く、し~ち……」
枝と葉っぱがちくちくと体を突っつく。土の匂いがした。すぐ目の前を通ったクモがとても大きく見えた。
「もーいーかい」
「もーいいよ!」
カズオ君の言葉に応える、僕とケンヤの声が重なった。
太陽が雲に隠れ、ふいに周りが暗くなる。なんだか空気まで冷たくなった気がする。
僕は口を閉じてできるかぎり息をしないようにする。小鳥の鳴き声と、それより大きいセミの声。
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