第1章

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「さっきまでたくさんいたんだよ。かわいそうだから逃がしてやったんだ」 (一匹は死んじゃったみたいだけど)と心の中でつけたす。乾いた地面の上で、死んだセミが転がっているのが見えた。 「へえ。そんなに捕まえたんならさ、もう虫とりはやめて僕とかくれんぼしようぜ! そっちの方が絶対おもしろいって!」  とカズオ君は楽しそうに言った。 (どうしよう?)  僕たちは顔を見合わせて、目だけで話し合った。  でも確かに、そろそろセミ採りも飽きてきた所だ。  この子も悪い子には見えなかったし、きっと遊ぶ人数は多いほうが楽しい。 「うん、いいよ」  僕らの言葉に、カズオ君はにっこりと微笑んだ。 「それじゃまず鬼を決めないと!」  ケンヤが言う。 じゃんけんをした結果、カズオ君が負けて鬼になった。 「うわあ、負けたぁ」  カズオ君はちょっと残念そうに言った。 「それじゃあいくよ。い~ち、に~い、さ~ん……」  こっちに背をむけ、幹に顔をくっつけるようにして、カズオ君はカウントダウンを始める。  早く逃げないと!  なんだかとってもドキドキしてきた。笑いたくなったけれど、声で鬼にどっちの方向へ逃げたか分かってしまうかも知れない。僕たちは口を押えてにやにやしながら走り出した。    僕はがさがさと繁みを突っ切りながら隠れ場所を探していた。早くしないとカズオ君が数え終わってしまう! 街の中と違って、山の中は意外と隠れられそうな場所がなかった。壁もなければ、自販機もない。  ケンヤはどこに隠れたんだろう? 探してみると、すぐ近くの木の後ろに隠れていた。幹があんまり太くないので両方の肩が見えている。僕は思わず笑いそうになった。  でも、ケンヤのことを気にしている場合じゃない。僕も早く隠れないと!  僕は茂みの中にしゃがみこんだ。いきなりでかい奴が来て驚いたのか、羽虫がいっぱい顔に飛んで出て、僕は手の平で払いのけた。 「ろ~く、し~ち……」  枝と葉っぱがちくちくと体を突っつく。土の匂いがした。すぐ目の前を通ったクモがとても大きく見えた。 「もーいーかい」 「もーいいよ!」  カズオ君の言葉に応える、僕とケンヤの声が重なった。  太陽が雲に隠れ、ふいに周りが暗くなる。なんだか空気まで冷たくなった気がする。  僕は口を閉じてできるかぎり息をしないようにする。小鳥の鳴き声と、それより大きいセミの声。
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