第1章

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 雲が太陽から離れて、また明るくなる。  近くで草を踏む音がして、僕はびくりと体を硬くした。  もうカズオ君が傍に来たのかな? もう数え終わったばっかりなのに。それともケンヤが隠れ場所を変えることにしたのかな?  音がした方に顔をむけた。葉っぱや枝の間から細い、というか痩せた足がみえた。  でも、それはカズオ君の物でもケンヤのものでもないようだ。女の子用の赤い靴をはいているから。  しゃがみこんだ姿勢のまま、女の子の顔をみようと首をひねって見上げる。けれど下から伸びている草と、目の前にある茂みのせいで、靴と黄ばんだブラウスのお腹の横あたりしか見えない。 (うわあ、まずいなあ)  きっと、たまたま同じ山で遊んでいた子が近くに来てしまったのだろう。  もしみつかって、「何してるの?」なんて聞かれたら!   隠れ場所を変えた方がいいかな? でもそろそろカズオ君もスタートの場所から動き始めているはずだ。へたに動いたら見つかってしまうかも知れない。  うん、やっぱりしばらくここでジッとしていた方がいい気がする。  僕はできる限り体を縮めて丸くなった。  カサ、カサ、と草を踏む音がする。僕はできる限り息を止めて、目をギュっと閉じた。カサ、カサ、カサ。足音は少しずつ大きくなって、また少しずつ小さくなった。  ふう、と僕はため息をついた。どうやらあの子は通り過ぎて行ったようだった。  でも、僕はまたすぐに息を止めた。また、どこか近くで足音がしたんだ。  今度は、今いる茂みの左側に、草を踏むはだしが見える。  さっきの女の子の友達なんだろうか? でも、なんではだしなんだろう? 確かにこの山には魚釣りや水遊びができる河があるけれど、ここからはかなり離れている。枝や小石が落ちているのに痛くないのかな?   たぶん、河に遊びに行った女の子たちグループが、お昼になって家に帰るところなのだろう。一人は遊んでいるうちに靴をなくしてしまったに違いない。  毎年遊びに来ていると行っても、近所に住んでいる人ほど詳しくはない。このあたりは河に続く道の近くなのかも知れない。だとしたら、この女の子たちをやりすごしても、また他の人が通るかも知れない。思い切ってここから離れた方がいい気がする。どこか、いい場所を見つけないと。
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