第1章

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 僕はそろそろと移動を始めた。できる限り頭を低くして、背中の曲がったお年寄りみたいな恰好で。できる限り足音をさせないように、つま先立ちで早歩きする。それでもどうしても草を踏む音や枝をよける音がした。その音で見つかるんじゃないかとドキドキする。  僕は山を少しずつ下りていった。木の隙間を通って、草の間をくぐって行く。  そのうち僕は地面にくぼみを見つけた。昔、大雨か何かで土が崩れたのかも知れない。一瞬熊が冬眠しているのかと思ったけれど、今は夏だから大丈夫なはずだ。この中に入れば、上から見られても下から見られてもすぐには分からないだろう。  僕はそこに入り込んだ。体育座りの感じになって、ちょっと狭かったけれどしょうがない。ここまでなんとか女の子たちには気づかれないですんだようでほっとする。 「もーいいかい」  そんな声が聞こえてきた。「鬼」が人を探す声。 でもそれは、どう聞いてもカズオ君の声ではなかった。  僕は驚いて思わず「ええ?」と大声を上げそうになった。カズオ君の他にも「鬼」がいる?  きっと、カズオ君は友達を呼んだんだ。僕たちを早く捕まえるために。勝手に鬼を増やすなんてずるい!  僕は、思わず隠れ場所から出ていこうとした。カズオ君に文句を言うつもりだった。もし見つかっても、ズルをしたのはカズオ君なんだから、僕が鬼になる必要はないはずだ。もう一度カズオ君に鬼をやってもらえばいい。いや、もう鬼ごっこはやめ! カズオ君と遊ぶのはやめよう!  けれど、上の方からがさがさと音がして、僕はつい体をすくめて穴の中に引っ込んでしまう。  でもよく考えたら、今すぐに文句をいうより、一度たくさんの鬼から逃げ切った方がかっこいい。そして逃げきったあとでハッキリ文句を言ってやるのだ。 「もーいいかい」  上からそんな女の子の声が聞こえて来た。  たぶんさっき見た赤い靴を履いた女の子だろう。行ったと思ったのに、戻ってきたんだ。まさかあの子たちもカズオ君の友達で、鬼だったなんて! 「もーいいかい」  穴からそっと顔を出してみると、女の子が木の間をゆっくりと歩いているのがみえる。黄ばんだブラウスを着ている。あの子も戻ってきたんだ。 (あれ、なんだろう)  前の隠れ場所では見えなかった、女の人の足が見える。
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