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第1話 Prayer1 ①
にわか雨が上がる。光芒は雲の隙間からおりて来る。
光の筋が真っ先に行き着いた先で、季節外れの吾木香が咲いた。
紅い花弁一つ一つが、世界を人理からはずしていく。
それが歴史の始まりにあった。
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人間とはかつて、か弱い獣の一種に過ぎなかった。
雨が降れば水に呑まれ、太陽が刺せば渇きに苦しみ、大地が揺れれば倒れて潰され、森に入れば迷い彷徨い、しかしそれらすべてが存在しなければ、自らも生き長らえられない。
雨を司る神々に媚び、太陽を司る神々に諂い、大地を司る神々に許しを乞い、森を司る神々の情けにすがる。
そんな惨めな獣だった。
安寧などどこにもなかった。
ただ星を数えて月日を過ごし、神々の気まぐれに生かされ、神々の気まぐれで死ぬ。それが、唯一の在り方だった。
惨めな獣を救う光は、夜空からやってきた。
まず最初に異変に気づいたのは、星空を眺めていた羊飼いだ。彼は誰かの歌を聞いた。歌は一日夜空で鳴っていた。
次に歌を聞いたのは巫女だった。神々を鎮めるために空に祈っていた時だった。歌は二日夜空で鳴っていた。
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