第1話 Prayer1 ①

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第1話 Prayer1 ①

 にわか雨が上がる。光芒は雲の隙間からおりて来る。  光の筋が真っ先に行き着いた先で、季節外れの吾木香(ワレモコウ)が咲いた。  紅い花弁一つ一つが、世界を人理からはずしていく。  それが歴史の始まりにあった。  ******  人間とはかつて、か弱い獣の一種に過ぎなかった。  雨が降れば水に呑まれ、太陽が刺せば渇きに苦しみ、大地が揺れれば倒れて潰され、森に入れば迷い彷徨い、しかしそれらすべてが存在しなければ、自らも生き長らえられない。  雨を司る神々に媚び、太陽を司る神々に諂い、大地を司る神々に許しを乞い、森を司る神々の情けにすがる。  そんな惨めな獣だった。  安寧などどこにもなかった。  ただ星を数えて月日を過ごし、神々の気まぐれに生かされ、神々の気まぐれで死ぬ。それが、唯一の在り方だった。  惨めな獣を救う光は、夜空からやってきた。  まず最初に異変に気づいたのは、星空を眺めていた羊飼いだ。彼は誰かの歌を聞いた。歌は一日夜空で鳴っていた。  次に歌を聞いたのは巫女だった。神々を鎮めるために空に祈っていた時だった。歌は二日夜空で鳴っていた。     
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