女の人とリップクリームと心理学

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 時間は充分にあったが、何となく橘線はいつものに乗らず、一本遅いのに乗った。…今日は、あの人に会えるだろうか? という期待を胸に抱いて。電車にうつる自分を見つめて溜息をこぼす。…あの女性のように綺麗だったらな、と。  地下鉄に乗り換える前、スマホを開いてノンノンに連絡。「今日も乗れなかったから、先に行ってて! ごめんねm(_ _)m」と伝える。何となく罪深い気分になる。本当は一緒に大学へ行けたはずなのに。ノンノンはどう思うだろうか。  中之辻線のホーム。ベンチにはザキさんがいた。夏希はザキさんに駆け寄る。 「ザキさん。こんにちは! 」 音楽を聴いているザキさんは驚いた様子だ。 「…あっ、こんにちは。」 こちらをチラッと見る。するといきなりこう言った。 「ごめん。その呼び方で呼ばないでほしいです。ハンドルネームだし。僕のこと知っている人間が聞いたら、何? って話になるじゃないですか。」 迂闊だった。そういえばと思った。夏希自身も、「ユメアリ」なんて呼ばれたら少し困る。 「では、何と呼べば良いですか? 」 「…本名がキザキだから、キザキ君で良いですよ。」 「わかりました。では、キザキ君で。」 その後二人の会話は繋がらなかった。ザキさんの所に友達だと思われる人がやってきて話し始め、電車に乗り込んでしまったから、夏希が入る隙はない。     
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