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7話 夢を認めてもらえた日
その日の夜、おかあさんはいつもより遅く帰ってきた。玄関でそわそわしながら、おかあさん待つ。
ドアの鍵を開ける音がし、入ってきたのはおかあさん。
「おかえりなさい、おかあさん。ちょっと話たいことがあるの。いい?」
「……うん、いいよ。」
おかあさんも、私が伝えたい事を理解してくれているかのように私の向かいの席に着いた。
まず、私が差し出したのは進路調査票。
「これ、実はだいぶ前に貰ってたの。嘘をついてごめんなさい。」
「うん、大丈夫。」
おかあさんは優しく受け取ってくれた。
「でも、どうして、早く渡してくれなかったの?」
「それは…あ、あのね。私、実はなりたいものがあって。それを、伝えなくちゃって思ってたら渡せなくて…」
「そうだったのね。じゃあ、その、結芽のなりたいものは、なに?言ってくれる?」
おかあさんは意外にもすんなりと、渡さなかった理由を理解してくれた。そして、優しく見つめながら、私が話してくれるのを待ってくれた。
「……私、歌い手になりたいの。」
「……!…そっか。それじゃあ、大学は?どうするの?」
「大学は……行かない。今から歌い手を目指そうと思う。」
少し、驚いた顔のままだったけど、やっぱり優しい顔でおかあさんは、頷き、
「それなら、色々、しないといけないね。…何か準備しないとその、、歌い手?にはなれないんでしょ?」
と言った。
私は嬉しかった。嬉しくて泣いた。優しくて支えてくれたおかあさんを裏切ってしまうような事を言ったのにも関わらず、何も言わずに支えてくれると、伝えてくれた。おかあさんは、私の顔を見て少し困りながら
「もう、泣かないの結芽。」と小さくなった手を私の頭を撫でてくれた。
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