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それから、二人とお腹の一人のささやかな生活が始まった。
タクが裸足だったアイリのために靴を作った。
アイリはその靴を履き、タクにご飯を作り、着っぱなしだった服を洗う。
湯を沸かしタクをお風呂に入れ、いけない事をすれば叱ってくれた。
そしてタクの世話をする傍ら、お腹の子どもに歌を聞かせる。
アイリの様な、優しい歌。
タクも……遠い昔に聴いた事のある気がする歌。
懐かしくて、彼女が歌う時 タクはいつも目を閉じ、耳を澄ませた。
ある時……その歌が突然止まった。
「どうしたの?」
お腹を見下ろしていたアイリに、タクが尋ねる。
「アイリ?」
「……蹴った」
「え?」
「赤ちゃんが蹴ったの!」
喜び溢れるアイリの声を聞き、タクが彼女に駆け寄る。
「本当!?」
「うん、ここ。ほら、触って、タク」
アイリはタクの手を取り、お腹の上の方に当てた。
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