オルター・洋子「龍平洋漂流記」より 第3章 妙味な男たち

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 そして、彼の出す答えは結局誠実にみえる。 彼女に子供ができれば親に結婚の報告に行く。父親が死病に冒されていると知れば父の傍にいて夢を叶えようと努力する。本人は真剣に考え真面目に取り組んでいるが端から見ると滑稽だ。しかも、どの行動も「強い決断の元」といった気負いはなく、そうか、了解!という感じで、黙々とやっていくんである。私は、みんながナメているモヒカンは、かなり信用できる男だと思った。そしてそれを信用してついて行く前田敦子演じる恋人は、なかなか見る目のある(無自覚だろうが)女である。  モヒカンが唯一はっきり意思表示しているのは「モヒカンで在りたい」ということだ。自分のやりたいことだけは確信していて曲げないで生きている。 吹奏楽部の気弱な中学生男子は、同性としてそのカッコよさを鋭く見抜いて、ラストで自分もモヒカンヘアーにしてしまう。  こう書いていると、モヒカンと「船を編む」の馬締光也は似ていることに気づく。でもモヒカンは、馬締より根本的に優しい気がする。厚みのある男の優しさを感じる。 「モヒカン故郷に帰る」は、高峰秀子の「カルメン故郷に帰る」有ってのタイトルだろう。実像は小賢しいくらい知的な高峰秀子が、白痴美の踊り子を演じる「カルメン…」はコメディーでありながら異様な名作と私は思う。「モヒカン…」も、コメディーとか、家族愛もの、と言うだけではおさまらない不思議な映画だと思う。  そして、あのヴィジュアル。萱場杢を見てしまってから簡単には驚かないぞと思ってはいたがやっぱり驚いた。そこまで腹をくくるんなら観る方だって腹をくくって観るんである。初めはびっくりした。私の綺麗な龍平を返して!とも思ったが、だんだん、いや…この人すごくいいぞ、素敵、となってくる。松田龍平は、額を出すか前髪を作るかですごく印象が変わる人。モヒカンが倒れて前髪になって額にかかるといつもの繊細な美貌。ところがモヒカンが立って広いおでこ全開になると、五分刈り部分も見えてぐっとごつく男っぽくなる。強面の、優しい、信用できる男。モヒカン。
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