オルター・洋子「龍平洋漂流記」より 第3章 妙味な男たち

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麦子さんと(2013公開)            …愛されることに疑問を感じない男  御正月休みに入る前に「麦子さんと」と「ボーイズオンザラン」のDVDを借りてきてテレビの脇に置いといたら、たまには映画でも見るかなーと夫が手に取った。どっちが面白い?と聞く。ざっと筋を話し、麦子はほっこり、ボーイズはドタバタ、と自分の感想を付け加えた。 夫は「麦子さんと」を観だした。息子も横で観だした。はじまって割とすぐ、堀北真希の兄役で松田が登場すると息子は口元でニヤリとした。どうして私がこれを借りてきたか合点が入ったのだろう。  映画自体はまあまあだったが、松田龍平の役は期待以上にすごく良かった。別に悪人でもなければ偉いところもない、どちらかと言えば善人よりな普通の若い男。傑出してるところは女にもてる点。モテタイ!と悩んだことなんか生まれてこの方なくて、愛されることを当然と思っている点。珍しいが、たまーに居る。実は、私の父がそうだった。  主人公は堀北真希、兄の松田龍平との二人兄妹。離婚して自分たちを置いて出て行った母親が突然戻ってきて同居することになる。帰ってきた母、余貴美子は温かさと哀しさ、可笑しさが同居していて適役だった。  母が戻ったことで狭い団地の部屋がモノでいっぱいになって兄妹二人の生活ペースが乱れる。すると兄の憲男は「俺出て行くわ、カノジョが同棲したいって言うんだよね」と流し目で言う。多分ウソはない。カノジョが、憲男を手元に置きたくて同棲したいのだろう。引越し当日姿を見せるカノジョは、憲男とは30センチくらいの身長差が有りそうな小柄。凄い美人でもないが可愛くて、どうも年上らしく、かいがいしくてしっかりしている。ピンクのダウンでキビキビ働いて、大きなトラックをさっさと運転して憲男を連れて行ってしまった。この「連れて行ってしまった」というのがミソである。憲男は、連れ去る側じゃなくて連れ去られる側である。
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