白石健太の場合

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この部屋は先ほどの部屋とは対照的に、薄い黄土色の壁とジャングルの様にうっそうとしたグリーンの葉っぱが天井に広がっている。 そこに個室トイレの様に仕切られたカウンターが4つほど並んでいた。 「こちらへ、今担当の者が参ります。」 そう促されて2番目の個室へ入った。 落ち着いた感じの女性店員が、にこやかに現れて席に着いた。 「担当の石橋です。本日はよろしくお願いします。」 女性店員は両手を机に添えて置き、おじきをした。 「あの、色眼鏡のパンフレットを見て伺ったんです。」 ポロシャツのポケットに入れてきた色眼鏡屋の小冊子を指でつまみ上げて、女性店員に見せた。 「それは、ありがとうございます。今日はどちら様の色眼鏡をご検討されていらっしゃいますか?」 「妻です・・。」 「それはお辛かったでしょう。・・」 それから40分後、琴子メガネを作る為の申込書にサインをした。 手続き自体は、驚くほど簡単だった。女性店員の誘導に従い、流れるように手続きは進んでいった。 契約の為に費やした時間はたったの5分だった。 幾つかの書類に名前を記入し、脳を管理している行政機関関係の書類はマイナンバーを伝えるだけで、用が足りる。 琴子を手元に引き寄せるのは、こんなにも簡単な作業だったのか、僕は拍子抜けしていた。 後は、電子マネーで代金を支払えば、すべての作業が完了する。 代金は、大衆車を買うくらいの金額だった。 高いのか?安いのか?その価値観で計れないのは分かっているが、つい考えてしまう。 すべての作業が終了し、これで終わるのかと思っていたが、続いて色眼鏡に関しての説明が始まった。 僕は、驚いていた。 石橋と名乗る女性店員が気の毒になるほど、長い時間だった。
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