白石健太の場合

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家に着くと、リビングに直行した。 僕はほとんどの時間をここで過ごしている。 ポケットの中身をテーブルに投げ出して、琴子がお気に入りだと言っていたソファーに腰を下ろした。 テレビのスイッチが入り、暗い部屋に頼りない光を届けて、雑音でしかない人の声が響いた。 僕の行動を察知して、テレビの中のAIが勝手にスイッチを入れてくれたようだ。 琴子の妹である美穂子ちゃんが来てくれてから2か月が経っているリビングは、あっという間に元の荒れ果てた姿に戻っていた。 部屋に散乱している脱いだ服やゴミが、テレビの光の揺らぎに合わせて、不安そうに影を作っている。 今日は久しぶりに外出したせいで、気分が高揚している。 この感覚が、懐かしく思えた。 テーブルに投げ出した琴子メガネに関する書類が2枚、でたらめな形に折れ曲がっていて財布と一緒に無造作に置いてあるのが目に入った。 帰宅してすぐポケットの中身を出すのは、琴子がいなくなっても、未だに癖として僕の体に染みついている。 琴子は、ポケットの中身を確認するのを忘れて、いつも洗濯してしまうからだ。幾度となく、大事なものを洗濯され、使い物にならなくなってしまった。琴子は案外、そそっかしい。 テーブルに置かれた書類の文字が見えた。色眼鏡に関する申込書という字だ。僕は今日、琴子の色眼鏡を申し込んできた。 次は僕の番だよね。 キッチンへ行き、引き出しからゴミ袋を取り出して、リビングに戻り、ゴミを拾い集めた。 それから脱ぎ散らかした服を洗濯籠へ放り込んだ。 そして、部屋の隅で電源を抜かれ放置されたお掃除ロボットの電源を入れ直した。 何となく片付いたリビングのソファーに再び腰を下ろした。
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