白石健太の場合

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就職活動は、呆気なく終了した。 有難いことに、元の職場に復帰できた。 元々、父親の友人が営む会社だったし、健太の能力を高く評価してくれている上司の口添えがあったおかげだった。 健太は、会社の恩情に涙が止まらなかった。 この会社で働く人達が、健太に暖かい声を掛けてくれる。 そして、健太の仕事復帰を歓迎してくれた。 こんなに沢山の人が健太を気に掛けてくれていた。 僕は、このことに気が付かないままだったかもしれない。 気が付けて本当に良かったと心から思えた。 琴子のいない生活が少しずつ動き出した。 琴子のいない寝室で寝起きをし、 琴子のいないキッチンでご飯を炊き、 琴子のいないリビングで買ってきた総菜で食事をし、 琴子のいない風呂でシャワーを浴び、 琴子のいない洗面で洗濯と身支度をし、 琴子のいない玄関で靴を履き、会社へ行く。 会社ではすぐに仕事の勘を取り戻せた。 拾ってもらった恩義もある。 健太は会社の迷惑にならないように懸命に働く。おかげで、琴子以外の事を考える時間が増えていく。 琴子のいない日常が、こうやって形作られていくんだと実感した。 だからと言って、琴子を忘れる訳じゃない、僕の中に溶けていくんだ。 琴子を僕から切り離すのは不可能だ。
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