白石健太の場合

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琴子らしい。 庭先に立つ健太は、小さな箱を持ちながら不思議な引力を感じた。 琴子が強い風を引き寄せている。 琴子にとっても今日が新しい門出になるんだね。 リビングに戻り、ソファーに腰を落ち着ける。 色眼鏡が入っている箱を慎重に開けた。 厳重に包装され、つるつるした布にくるまれた色眼鏡を箱から取り出した。 箱の中には眼鏡の他に、分厚い説明書、充電器、琴子の脳診断が行儀よく並んでいる。 それらもすべて、箱から取り出し、テーブルの上に並べて置いた。 何重にもなっている色眼鏡の包装を丁寧に外して、やっと色眼鏡とご対面できた。 両手にスッポリ収まる色眼鏡は、普通の眼鏡よりも少しゴツイだけの眼鏡だ。これの何処に、AIだのメモリーだのが入っているんだろう? マジマジと眼鏡を見つめた。 琴子と目が合っている。急にそんな思いが胸の芯に響く。 琴子が、僕の元に帰ってきてくれた。そう思えた。 「ずいぶんと小さくなっちゃったな・・琴子・・」 目頭が熱くなった。 琴子メガネにいきなり、僕の涙を見せるわけにはいかない。 これじゃ、琴子が心配してしまうかもしれない。 歯を食いしばり、出そうになった涙を、グッと堪えた。 気持ちが落ち着いたところで、さっそく琴子メガネを充電器につなぐ。 コンセントと充電器を繋ぐと、色眼鏡の耳に掛けるエの部分に、小さな赤いランプが点灯した。
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