高木宗太の場合

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高木宗太の場合

僕は、大学を卒業したての24歳。 一浪と留年を経験している。世間的にいうなら、きっと放蕩息子の部類に入る。 僕の夢は、音楽でメシを食うこと。 でも、なかなか厳しい。 同世代のアーティストはすでに沢山活躍しているし、それなりに結果を出している知り合いのバンドも多い。 そんな中、僕はどこにも引っかからず、燻っている。 どんなに望んでも届かない。 活躍できる人と出来ない人の差は、生まれた時に、すでに決まっている。 つまり僕には音楽的センスがない。 持って生まれなかったのだから仕方ない。 この歳になって、ひどく痛感している。 このまま突っ張って音楽活動をする勇気もなく、とりあえず建設会社に就職して、それを機に独立した。 窮屈でうんざりした実家暮らしが恋しく思えるくらい、会社と生活に追い立てられて、毎日パンパンだ。 それでも音楽を諦めきれなくて、バンド活動を細々と続けながら、チャンスをうかがっている。 会社に勤めながらの音楽活動は時間的制約が大きく、思うようにいかない。 ライバルたちは、僕が会社にいる間も、練習に勤しんでいる。 まだ負けたくない。 まだ諦めたくない。 苛立ちがどんどん募っていく。
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