高木宗太の場合

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連日病院に通い詰める父も、僕が病院に行くとホッとした顔をする。 「お前が来ると、母さんが喜ぶから、出来るだけ顔を出してほしい。」 病室の外で、母に聞こえないよう気をつかいながら、父は僕にそう言った。 家にいる時の父は、いつもの席に座りコーヒーを飲みながら新聞を読み、思い立ったようにパソコンに向かい仕事をする人だった。 愉快に話したり、冗談を言ったりすることもなく、家族のもめ事にも口を挟まない無口すぎる父だ。 当然、僕と母の間で毎日のようにしていた激しい口喧嘩にも、気が付かないふりを決め込んでいた。 家の事には関心が無い人だから仕方ない、僕は諦めるように父を見てきた。 そんな父でも母の事はよく分かっているんだなと感じた。 だてに長年、夫婦をしている訳じゃない。 二人にしか分からない絆みたいな物があるのだと思う。 父の気持ちも分からなくもないし、僕だって出来る限りの事はしてあげたい。だけど、無機質すぎる部屋で母と二人で顔をつき合わせて今日の天気について話せというのだろうか? 僕には無理だ。 荷が重すぎる。 だけど、お見舞いに行かない訳にもいかない。 母だって僕がお見舞いに行くのを楽しみにしているし、僕自身も自分の気分が乗らないという理由で病院に行かなかったとしたら、絶対、後で後悔する。 そんな複雑な思いを抱えたまま、僕は母のお見舞いに行く。
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