高木宗太の場合

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帰宅してすぐに、タクヤの色眼鏡を箱から取り出した。 普通の眼鏡より骨太といった感じで、がっしりしている。 おお、これがタクヤの色眼鏡か。 この眼鏡を通して見るとタクヤの目になる。 感動的。充電が終わったら掛けてみよう。 ・・・ えっ、これがタクヤの視覚?うそだろう。宗太はガッカリした。 時代の寵児ともてはやされたタクヤの視覚は、すべてがセピア色の世界。 なんの面白みも感じない。 そういう理由だったのか・・、宗太はピンときた。 タクヤの色眼鏡だけが安かったのはこのせいだ。 もしも僕がタクヤと同じ立ち位置に行けたなら、見える物すべてがバラ色に見えるだろうに。 なぜだろう? タクヤの視覚は、色をなくした世界しか見せてくれない。 穢れた世界、汚れた世界、そう言えば、タクヤの書いた歌詞によく出てくる。タクヤは、そんな風に世界を見渡していたのだろうか? 理由は分からないけれど、タクヤはこの世界に興味を持てない人だった。 そんな人が作った音楽が、この世界に響き渡り、一時代を彩ったことになる。 タクヤは、どうして音楽を作り続ける事が出来たんだろう。 それだけじゃない。タクヤが手掛けた楽曲の総売上金額は、未だに誰にも破られていない。 タクヤが作った音楽は、たくさんの人の心を掴み、虜にした。 タクヤは、何かに感銘を受け、何かに影響され、何かに刺激を受け、確かな思いがあったからこそ、音楽を作り続けていたのではないか? すべてがまぐれだなんて、ありえない。 そうでなければ、たくさんの人に共感され、支持される曲を作れるはずがない。 タクヤの音楽の源を探し当てる事が出来たら、タクヤの想いが少しは分かるかもしれない。宗太はそう考えた。 仕事が終わると、タクヤの色眼鏡で物を見るように心掛けた。 タクヤの色眼鏡を掛け、電車に乗り、食事をし、テレビを見た。寝るまでのほとんどの時間を試してみた。
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