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母の実家へ向かった。家族全員、押し黙ったまま車に揺られて、20分。
到着した母の実家である高橋家は大変な騒ぎの渦中にあった。
佐和子おばさんは、夕方のニュースに写真を提供したり、現地レポートに出演したりして、ちょっとした有名人だ。
その佐和子おばさんが、とんでもない事件に巻き込まれ亡くなったのだから、こぞってマスコミが取材合戦に参戦している。
佐和子おばさんの死亡のニュースには全国ネットの報道番組で繰り返し報道され、世間を揺るがす大事件の扱いだ。
大勢の報道陣が家の前を陣取り、野次馬がその裾野を広げていて、近づくのも困難だ。
どこを見ても、人、人、人。信じられない光景が広がっていた。
「えらい事になってしまったな。」
父は困り顔で、ハンドルを握っている。
この人だかりを越えて、高橋家に車を止めなければならない。
無理に車を動かすことも出来ず、父は渋々、車の窓を開けた。
車の窓ガラスを開けた途端、それに気が付いた報道陣が一斉に車を取り囲んだ。
「高橋佐和子さんのご家族の方ですか?少しお話を聞かせてください。」
「佐和子さんの訃報を聞いて、どう思ったか教えてください。」
「佐和子さんと最後に会ったのはいつですか?」
一斉にマイクが向けられた。
あまりの勢いに、車ごと押しつぶされるかと思い、恐怖を感じるほどだ。
車の助手席に座る母はただ泣き続けていて、父は車を駐車したいので道を開けてくださいと連呼した。
この状態の中で、お構いなしにカメラが向けられ、不愉快だ。
めぐみは佐和子おばさんを失った悲しみと共に、苛立ちや不安、恐れに怒りといった感情が渦を巻いて入り混り、大声で叫びたくなった。
この人達を汚い言葉で罵り、出来る限りの悪態をつき、怒鳴り散らしたら、すっきりするかもしれない。
この人達が悪いわけじゃないけど、この消化できない強い思いを訳の分からないこの人達で発散したい衝動にかられた。
そんな事をしたら、とんでもないニュースになってしまう。
めぐみは下を向いてじっと車の中で耐えるしかなかった。
たった10メートル、車を動かして高橋家の車庫に納めるのに、25分も掛かってしまった。
この事態を収めるために、おじいちゃんが家の外に出て報道陣の対応を始めた。
いつも堂々としているおじいちゃんとは違い、しぼんだ風船のように存在感が吹き飛んでいた。その様子が、あまりに痛々しく見えた。
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