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高橋家のリビングには近しい親族が集まっていた。
「佐和子は、紛争地で流れ弾に当たって死んだんだ。」
おじいちゃんは悲しい顔でみんなに報告した。
ここに居る誰もが下を向いて悲しみに耐えている。
すすり泣く声も聞こえだした。
「大使館から連絡があった。佐和子の遺体は、明後日には日本に着くそうだ。」
おじいちゃんの声がうわずっている。必死で涙を堪えている姿がより一層悲しくさせた。
ここに集まった親族は誰一人、押し黙ったまま口を開く者はいなかった。
芸術家らしい洗練されたリビングは、深い悲しみ色に染まった。
おそらく、外にはまだ報道陣も野次馬も高橋家を囲んでいると思うけど、外の雑踏は、不思議と聞こえなかった。
ただ、母とおばあちゃんのすすり泣く声だけが、響いた。
佐和子おばさんは独身で、子供はいない。
だからなのか、めぐみを猫可愛がりしてくれた。
日本に帰ってくると、すぐに電話が掛かってきて、美味しものを食べにあちこちと、めぐみを連れまわした。
佐和子おばさんは、そうやって仕事の疲れを癒していた。
めぐみは佐和子おばさんが大好きだ。
気さくだし、何でも包み隠さず話してくれる。
歳の離れためぐみとも同じ目線で、対等に話してくれるのは、佐和子おばさん以外にはいなかった。
母に言えないことでも、佐和子おばさんには何でも言える。
「今、悩んでる事は、いずれ役に立つ武器に変わるんだよ。」
そう言って、佐和子おばさんは励ましてくれる。
そんな佐和子おばさんが死んだなんて信じられない。
早く悪い夢から覚めて、佐和子おばさんと話がしたい。
めぐみは、自分がいる世界とは別次元からの届く声を聞いているように、ただ茫然とおじいちゃんの話しを聞いていた。
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