山田めぐみの場合

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佐和子おばさんが亡くなってから、一年が経とうとしている。 佐和子おばさんが亡くなったあの紛争地は休戦協定が結ばれ、平和宣言された。 ただ、火種はあちらこちらに燻っていて、新政府と市民の小競り合いが今も街のどこかで起こっていると聞いた。 平和は、表向きだけで、佐和子おばさんが亡くなった一年前と、事情はあまり変わっていないそうだ。 日本では、佐和子おばさんの写真集が、本屋の店頭に並んだ。 遠くを見つめる佐和子おばさんの横顔が表紙になっていて、 “平和について考えてほしくて” とタイトルが左下に筆記体で書かれていた。 紛争地での美しい風景や、優しい表情の女性、楽しそうな子供たち。 おばさんの写真は、紛争地でありながら紛争とは無関係なものに焦点を当てたものが多い。 平和になれば、ここはいいところだと、おばさんの写真は語っている。 もちろん、紛争地でしか撮れない寂しい情景や、悲惨な惨事を浮き彫りにした悲しい写真も写真集には納められていた。
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