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暑さが落ち着き、そろそろ人肌恋しい季節を予感させる頃、高橋家に珍客が現れた。
「わたくしは、色眼鏡屋企画担当の磯部と申します。」
玄関先で、男はそう言って、名刺を差し出した。
おじいちゃんは、磯部という男をリビングに招き入れた。
一回り小さくなったおじいちゃんが一人で、この男の対応をしていた。
「佐和子を商品にするつもりか!」
洗練されたリビングにおじいちゃんの怒鳴り声が響き渡った。
何事かと思い、リビングに行くと、おじいちゃんは烈火のごとく怒っていて、磯部と名乗る男を追い出した。
おばあちゃんも慌ててやってきて、おじいちゃんに説明を求めた。
おじいちゃんの説明によると、磯部という男は色眼鏡屋の企画担当で、佐和子おばさんの視覚を譲ってほしいと、高橋家にやってきた。
ゆくゆくは商品化を視野入れているのだと話した。
眼鏡が売れれば、ロイヤリティも発生するし、店頭に佐和子眼鏡が並ぶ事で、佐和子の功績が人の目に触れ続け、後世に残り続けるのだと、磯部は言った。そして、何より佐和子の世界をもう一度、この世界で感じることが出来ると言ったそうだ。
その話を聞いたおばあちゃんは、それでもいいから、佐和子を近くに感じたいと言って泣いた。
おじいちゃんは、佐和子が商品になるなんて嫌だと怒り、二人の話し合いは、平行線のまま、妥協点で見つけられず続いた。
そのうち、二人とも冷静さを失くしていき、感情的になっていった。
めぐみは心配になり、母に電話を入れた。
次の日、めぐみの母も加わり、冷静になるどころか、火に油を注ぐ形になってしまった。おかげで高橋家はもめにもめた。
磯部と名乗る男が再び、高橋家にやって来た。
きちんとした説明が必要だと、おばあちゃんとめぐみの母が呼び寄せたのだ。それから突っ込んだ話し合いが磯部と名乗る男と、高橋家の間でしばらく続いたようだ。
残念ながら、めぐみは立ち会えなかったから、詳しくは分からないが、結局は、試作の色眼鏡を作ることに同意したようだった。
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